【相棒season9】第8話「ボーダーライン」を解説

暗いストーリーが多めなseason9。その筆頭といえる作品が第8話の「ボーダーライン」です。
ビルから転落し、遺体で発見された無職の36歳男性が亡くなるまでの約1年を特命係がたどるストーリーになります。
就職氷河期での非正規雇用、派遣切り、再就職の失敗、年齢の壁、婚約破棄、家族との不仲という連続コンボでたちまち生活困窮となったある男性。果たして、人生最期の日に何があったのでしょうか。

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「ボーダーライン」の概要

放送日

2010年12月15日

主な出演者

柴田貴史/山本浩司

柴田英樹/中野英樹

【区役所職員】

鈴村淳/長岡尚彦

【ゴーダ土建】

郷田正/天田暦

【滝沢警察署生活安全課】

野田新造/内野智

【恋人】

木下絵利香/林田麻里

【レンタルコンテナ】

南栄治/平尾仁

ほか

相棒のレギュラー

杉下右京、神戸尊、伊丹憲一、三浦信輔、芹沢慶二、角田六郎、米沢守、大木長十郎、小松真琴

脚本

櫻井武晴

監督

橋本一

「ボーダーライン」のあらすじ

2010年12月12日、都内の墨川ビルの下で、屋上から転落したとみられる男性の遺体が発見される。

遺体の手や腕にはナイフによる切り傷、いわゆる防御創とみられる傷があった。所持品の財布に金が入っていないことから、捜査一課はナイフを持った行きずりの強盗犯に襲われた男性が、屋上の端まで追い詰められ落とされた可能性を視野に捜査を開始する。

被害者の身元は、財布に残されていた国民健康保険証から、氏名は柴田貴史(しばたたかし)、年齢は昭和49年(1974年)生まれの36歳であることが判明した。他にも彼の所持品として3本の鍵が見つかっている。

米沢守から事件のことを聞きつけた杉下右京は、遺体の胃の内容物に注目する。柴田は亡くなる2時間以内に、数の子、牛肉、わかめ、りんご、小麦粉、乳脂肪分を食していたようだ。このバラバラな食品の組み合わせに疑問を抱いた杉下右京は、柴田の生前の足取りを調べ始める。

柴田貴史が亡くなるまでの時系列

杉下右京たちの捜査で判明した柴田貴史の人生を、時系列にしてみました。

発生時出来事
1974年・誕生
1997年頃~・大学卒業
・派遣社員、契約社員として職を転々とする
2008年・派遣社員としてイベント会社「沢エンタープライズ」に入社(33歳)
2008年
~2009年
・医療事務の資格取得
2010年1月・イベント会社で正社員になる話が持ち上がる(35歳)
・絵利香と婚約
1月中旬・イベント会社から解雇通知(正社員の話は立ち消え)
・会社の紹介で、寮付きの建設会社「ゴーダ土建」へ(非正規雇用)
・寮に入る予定でアパート解約
・寮に入れずネットカフェで寝泊まりを開始
・手元に残る金は1日2,000円程度に減少
1月下旬・兄の英樹に金の相談をするが断られる
2月・「ゴーダ土建」との契約更新がなくなり無職となる
2月~3月・就職活動を再開するが難航
3月・絵利香との婚約が破棄される
4月・生活保護申請のため区役所を訪問するが申請できず
5月・古物商の許可申請の名義貸しを行う
・「10万円+許可取得までの衣食住」を得る
・就職活動は継続中
7月・古物商の許可取得
7月~9月・違法ブローカーから名義貸しのあっ旋を受けるようになる
・やりすぎたことで名義貸しの需要がなくなる
7月~11月・レンタルコンテナを契約
・コンテナ内での寝泊まりが発覚して11月に強制解約
10月頃
~12月
・食事や菓子の無料サービス、スーパーなどの試食を回る生活
・1日中歩き続ける必要があり、就職活動が不可能に
12月11日・試食先の「マームケーキドーナツ」でスタッフに声を掛けられる
・退去したアパートを訪れ、新しい入居者を確認
・ビルから転落死

「ボーダーライン」の見どころ

柴田貴史の所持品から人生をたどるストーリー

柴田貴史の所持品である3本の鍵を手がかりに、杉下右京と神戸尊が生前の柴田の約1年間の足取りを追っていくストーリーです。

胸の奥がずっしりと重くなって、途中から観ていられなくなるよ

かなりの鬱展開だから、気持ちが弱っているときは閲覧注意だよ…!

3本の鍵の正体

以下は、柴田貴史の遺品として見つかった鍵の正体です。

レンタルコンテナの鍵

古物商の名義貸しをしたことで、レンタルコンテナの存在を知った柴田。
7月から11月まで契約し、ネットカフェ代を浮かせるために寝泊まりに利用していました。

しかし、利用者からの苦情を受けて、11月に管理会社が見回りに来た際に寝泊まりが発覚。

柴田は鍵を持ったままコンテナから逃げ出し、返却できずにいました。

コンテナはその後、規約違反として強制解約になったよ…

私書箱の鍵

1月からネットカフェ暮らしとなった柴田。

日常生活や就職活動のために、退去したアパートを現住所として使い続けていました。
その際、郵便物の転送先として私書箱を契約していました。

区役所の無料ロッカーの鍵

生活保護の申請に行った際に見つけたと思われる、区役所内の無料ロッカー
中には、100円ショップなどで購入した安価な新品の衣類履歴を消去された携帯電話医療事務のテキスト、そして破れてはいるものの「木下絵利香」という女性の名前が記入された婚姻届が入っていました。
また、医療事務のテキストには、診療報酬の不正請求に関する項目に入念にマーカーが引かれていました。

家がないから、持ち歩けないものを入れていたんだね

柴田貴史と関わりのあった人物や企業

柴田貴史の兄・英樹

柴田の兄・英樹が弟の貴史と最後に会ったのは2010年1月で、貴史がアパートを退去した後のことでした。
貴史はそれまで派遣社員として職を転々としていたといいます。

最後に会う少し前に、英樹は弟から「正社員の仕事が決まった」と報告を受けていました。
ところが、最後に会うこととなったのは、弟から「金を工面してもらないか」と連絡があったためでした。
夜の公園で貴史にどういうことなのかと尋ねると、貴史は一言、「解雇された」と答えます。
英樹はなぜ解雇されたのかと尋ねますが、貴史は「わからない」と言います。
「失業保険がでるだろう」と言いますが、貴史は「雇用保険も労働時間も足りない」と返します。
それを聞いた柴田の兄は「いい加減に働いているからだ」と、厳しい口調で言います。

結局、兄からは「俺は母さんと自分の家族で手一杯だ」と言われてしまうんだ…

どうやらお母さんが入院していて、兄が色々と負担しているみたいだね

貴史は食い下がらず「もういいよ」と言って帰っちゃった…

貴史は兄にお願いに来たはずなのに、兄が一方的に質問して、それに最小限答えただけって感じで、全然ちゃんと話せてない気がする…

もともと兄のことが苦手そうに見えたなあ…

柴田の失業保険について

派遣社員の雇い止めのように、有期の労働契約が更新されなかった場合、離職の日以前の「1年間」に雇用保険の被保険者期間が「6か月以上」あれば、失業手当を受給できることになっています。

一般の被保険者(正社員など)の自己都合退職なら、過去2年で12か月以上になるよ

柴田は2008年から2年間、イベント会社で派遣社員として働いていますが、その当時の雇用保険の加入条件は、所定労働時間「20時間以上」、雇用見込み期間は「1年以上」(2009年4月からは「6か月以上」、現行は「31日以上」)でした。
労働時間が足りない」と柴田が言っていることや、後に区役所で「仕事のない時期もあった」と話していることから、イベント会社では週の労働時間が足りておらず、失業手当がもらえなかったのではないでしょうか。

(参考)厚生労働省HP|雇用保険の適用拡大について

いわゆる就職氷河期とよばれるこの世代の男性は、30歳前後の時の正規雇用率が他の年代と比べて10%くらい低いっていうデータもあるんだ

(参考)内閣府HP|「日本経済2019-2020」


墨川区役所の職員

4月になって、柴田は墨川区役所福祉事務所に来所します。
対応した職員は、当初は杉下右京たちに対し、相談内容は「就職に関するもの」だったと話します。
大学卒業後、柴田は派遣社員や契約社員として働きながら、就職活動を続けていました。
2年前からは派遣社員としてイベント会社で働き始め、仕事のない時期には医療事務の勉強をして資格を取得したといいます。
今年1月にはイベント会社から正社員登用の話が持ち掛けらますが、その直後に業績が悪化し、正社員どころか雇い止めとなってしまいます。
その後は、イベント会社が紹介した寮付きの建設系の会社に入るのですが、実際は寮には入れてもらえず、手取りがかなり減ります。

ここまでは、お兄さんのところで話した内容とだいたい同じだね

さらに、その建設系会社も、翌月の2月に雇い止めとなりました。

ああ…ついに無職になってしまったんだね

ところが後に判明した事実から、柴田はこの日、本当は生活保護の申請のために来所していました。
しかし「65歳以上でなければならない」「親兄弟など頼れる人がいると難しい」と職員に説明され、申請を断念したのです。職員は医療系の求人サイトのアドレスを教え、「若いんだから頑張って」と言っただけでした。

柴田はここにくる前、ゴーダ土建の社長に「医療事務の資格があっても実務経験がないと応募できない」「でも35歳を過ぎた人間に経験を積ませてくれるところがない」という、どうしようもない状況を話しているんだ

つまり、もう医療系の求人はかなり探した後なんだよ

アドレスをもらって納得して帰ったんじゃなくて、何もしてくれないって分かって帰っちゃったんだね…

なぜ生活保護の申請に来ていたのに受理しなかったのかと杉下右京たちが問いただします。

すると職員は「1人で100人近い受給者を担当している」「生活保護費を減らすよう上からの圧力もある」「新規申請を受ける余裕がなかった」と説明しました。

これに対し杉下右京は、「限られた財源だからこそ、生活保護を本当に必要とする人を見極めるのがあなたの仕事ではないか」「あなたの待遇改善と生活保護困窮者の見極めは別問題だ」と指摘します。

右京さん、本当にかっこいい

右京さんは申請が受理されていれば、たとえ最終的に生活保護の受給に至らなかったとしても、役所から家族に連絡がいけば、柴田の困っている様子がそのまま伝わったんじゃないかって考えてたんだ

そっか…お兄さんとはあんな感じだから、柴田にとっては役所から兄に連絡が入るだけで助けになった可能性もあったのか

元恋人・木下絵利香

区役所の無料ロッカーに入っていた婚姻届から、柴田には結婚を約束した絵利香という恋人がいたことが判明します。
彼女によれば今年1月、柴田から正社員になれると聞いて、その時に一緒に書いた婚姻届だといいます。
それまでは柴田の収入が不安定だったため、絵利香は結婚に踏み切れずにいたのです。
ところがその後、柴田は正社員になるどころか、イベント会社を解雇されてしまいます。
その後に紹介された建設会社も正社員ではなく、実際の収入は結婚できる水準ではありませんでした。
さらにその会社も1か月もしないうちに解雇され、無職になってしまいます。

ここまでは区役所で聞いたね…

柴田…

今年3月、絵利香はカフェで柴田と会い、彼から採用面接に落ちたと報告を受けました。
その面接の倍率は50倍という狭き門だったようで、柴田は諦めた様子で話します。
すかさず絵利香が「結婚はどうするの」と尋ねると、柴田は「正社員じゃなきゃだめなの」と、少しいじわるな質問をします。
ここから徐々に険悪なムードになっていき、柴田が「もういいよ、どっかの正社員と安定した生活でもしてろよ」と口にし、二人の関係はここで終わりました。

絵利香は柴田と結婚したくて待っていたんだろうから、落胆は大きいよね

子どもとか考えると年齢も気になってくるだろうし…

でも柴田に、その期待を受け止める余裕はないよね

そもそも募集が少ないし、見つけても実務経験がなくて応募できない。

やっと面接受けても倍率が高すぎるっていう状況。

どんどん状況が悪くなっているのに、前よりもさらに高いところを目指せって言われ続けたらつらいよ

絵利香にとっては結果的にこれが一番良かったのかもね…

イベント会社と建設会社

柴田が2年勤めたイベント会社「沢エンタープライズ」は、ライブやセミナーの企画・運営を行う会社です。
一度は柴田に正社員登用の話を持ちかけましたが、業績悪化を理由に、柴田を含む派遣社員たちをあっけなく解雇しました。
柴田たちがこのイベント会社から解雇された時、次の働き口として紹介してもらったのが、郷田社長が経営する「ゴーダ土建」です。
「寮付き」という話でしたが、郷田は「寮は満室」と説明します。

後になって郷田社長は、もともとこれは「宿無し集めの嘘」であり、最初から住まいを提供する気なんかなかったと説明しているよ

ええ!?

寮付きだって言われたら、柴田みたいに賃貸を解約する人もいるよね?

どこの賃貸でもだいたい1ヶ月くらい前に退去の連絡はしないといけないし…

そう、それなんだよな

しかも最後は日割り家賃になることが多いから、普通は無駄に払わないで済むようなるべく早く連絡しようとするものだし…

これは本当にクソすぎる…

しかし寮に入れないことを知ったからといって、職にあぶれている柴田たちは、ゴーダ土建を簡単には諦められません。
柴田はすでにアパートを解約していたため、この日からはネットカフェ暮らしで、ゴーダ土建で働くことになりました。
ゴーダ土建は、日当7,700円で柴田と契約し、ガレキ運びなどの現場を案内します。
ただし、日当からは用具のレンタル料が差し引かれ、さらにそこから日々の食費やネットカフェ代を引くと、手元に残るのは1日2,000円ほどでした。
アパートの初期費用を貯める余裕もなく、柴田は時間と体力を失っていきます。

会社の社会保険に入れない柴田は、所得に関係なく定額で発生する国民年金(当時は毎月15,000円ほど)や、国民健康保険料も払わないといけないよね…?

そうだね
国民健康保険はこの状況なら申請することで減免される可能性があるけど、自動で減額はされないんだ

果たして柴田は相談できたんだろうか…

ところでゴーダ土建は「寮付き」であると騙してまで人を集めているのに、どうして柴田を翌月に解雇したんだろ?

ゴーダ土建のもう一つの顔は、派遣社員を解雇したい社長たちの受け皿でした。
突然の解雇で抗議されないよう、社長たちは新たな働き口の面倒をみるフリをし、さらに悪い労働条件であるゴーダ土建を案内します。

ゴーダ土建ではとりあえず仕事をさせ、適当に1か月で契約更新をせず雇い止めをし、あとは放り出すのです。

このしくみを利用する会社は、業績がちょっと悪くなったらすぐに雇い止めして人件費をいったん減らし、稼げそうになったらまた募集すればいいって考えてそうだよね…

前のイベント会社の場合、正社員登用も匂わせてやる気を搾取するタイプかもしれないね

もしそうならそっちの社長もなかなかの悪だ

ゴーダ土建の偽装請負とは

杉下右京がゴーダ土建の郷田社長に、「建設現場に作業員を派遣しているようだがこれは違法ではない」と尋ねると、社長は「うちは請負だから」と説明しています。
これは、「工事発注者」と「ゴーダ土建」との間の請負契約に基づき労働者に作業をさせているため、労働者派遣法違反にならないという理屈です。

安全確保や責任の所在明確化のために、建設や解体作業は派遣形態が禁止されているんだよね?

そうそう!

だから工事発注者のもとに自社作業員を派遣して、工事発注者の指揮命令下で働かせると派遣になって違法になるけど、ゴーダ土建はあくまで作業員への指揮命令をしているのは自分だからセーフという話みたいだね

しかしその場合、建設業法における工事現場への技術者の配置責任はゴーダ土建にあります。(建設業法第26条

そのため、杉下右京は技術者が現場にいるかどうかを尋ねますが、郷田はきちんと配置していると答えます。
しかし、伊丹たちの捜査により、建設現場に技術者を出していたのはゴーダ土建ではないことが判明しました。

これによって実態は派遣契約であるにもかかわらず、請負契約を偽装していたという疑いが浮上したんだね

違法行為に柴田が一矢報いた?

あれ?

ゴーダ土建の偽装請負の情報をつかんだのは捜査一課の伊丹さんたちだったね

これは生活安全部門の事件のはずだけど、どうして?

伊丹たちが動いた理由は、柴田の遺体が発見された墨川ビルが、最近までゴーダ土建の現場になっていたためです。
柴田の転落死を事件として捜査している伊丹たちは、ゴーダ土建を追及するため、偽装請負の話を皮切りに捜査を進めようとしたのでしょう。

これは図らずも柴田が郷田社長に一矢報いたということかな…

古物商の名義貸しを依頼したオザキ~名義貸しのブローカー

金のない柴田は、古物営業法違反で前科のあるオザキに声をかけられます。
オザキは新しいリサイクルショップを立ち上げるため、別の人に許可申請をしてもらう、いわゆる「名義貸し」に柴田を利用しようとしたのです。

古物営業を始めるには、警察署への申請を通じて都道府県公安委員会の許可をもらう必要があるんだ

でも5年内に営業停止処分を受けた人には許可を与えられない決まりになっているよ(古物営業法第4条

後にでてくるけど、オザキの場合は盗品を扱ってたことがバレて営業停止にされたっぽいね

オザキが名義貸しの対価として柴田に提示した報酬は、現金10万円と、許可がおりるまでの衣食住の費用でした。
違法行為であることは柴田もわかっていたため迷いますが、背に腹は代えられず引き受けてしまいます。

生活が不安な柴田にとっては大金だ…

しかし、オザキがリサイクルショップを始めたのは盗品を売りさばくためでした。オザキが捕まっていれば、名義を貸した柴田も無関係ではいられなかったのです。

普通の時なら「こんなことしたら取り返しがつかなくなる」ってわかるけどさ…

貧すれば鈍するという言葉があるけど、明日ご飯を食べられない不安がある時に後先のことなんて考えられないよ…

そして、一度名義貸しをした人間は、その情報が裏社会に広がっていきます
やがて、ネットカフェで求人情報を収集している柴田のもとに、知らない人物から次々と名義貸しの依頼が舞い込んでくるようになりました。
最初は、携帯電話契約の名義貸し。
そして電話会社に目をつけられ始めたところで、次は企業が融資を受けるための連帯保証人の名義貸し

次は外国人女性との偽装結婚と、どんどん犯罪性の高いものに変わっていきます。

名義貸しのブローカーは柴田を使い倒すため、1か月間ギリギリで生活できるくらいの報酬しか柴田に払わないんだ

そして柴田の名前が出回り、柴田が目をつけられ始めたら柴田を捨てるんだ…

7月から9月まで名義を貸しまくった結果、「もうお前の名前に価値はない」と言われてしまうんだ

無料食堂や試食コーナーなど

名義貸しの収入がなくなってからの約3か月間、柴田は無料の食堂、献血後に無料で食べられるお菓子コーナー、試食を行っているスーパーや個人商店を携帯電話にメモし、それらを巡って歩き回ります。
実際に杉下右京と神戸尊もメモを辿って歩いてみますが、それだけで疲れ果てて一日が終わってしまうものでした。

食べることだけで精一杯で、就職活動をすることもできなくなったんだ

また、これらを巡るためには身だしなみに気をつけなければならず、格安の衣類ネットカフェでシャワーを使うための料金レンタルコンテナの月額使用料も、わずかな残金から工面しなければなりません。
そんな生活を、柴田はおそらく3か月ほど続けていたと考えられます。

「ボーダーライン」柴田貴史の最期の一日

そして、いよいよ柴田が転落死した日(12月11日)になりました。

ドーナツ店の女性スタッフに声を掛けられる


人生最期の日に柴田がやって来たのは、手作り焼きドーナツの店「マームケーキドーナツ」でした。
通り沿いにあるこの店では、店先に女性スタッフが立ち、一口サイズにカットした商品の試食を行っています。
柴田はこの店で、過去2度試食をしていました。
ところが、スイーツ店に一人でやってくる男性客はめずらしいため目立ってしまい、このスタッフは柴田の顔を完全に覚えていました。
試食だけして何も買わなかったため、柴田のことを冷やかし客だと思っていたそうです。
そして3度目の来店となったこの日、このスタッフは柴田にある仕返しをしました。
たまたま通りかかったような顔をしてやってきた柴田に「いつもどうも」と自ら声を掛け、さらに「どうぞ」と積極的にドーナツを勧めます。
そして柴田が戸惑っているところで、「気に入ったら、買ってくださいね」と柴田の顔をじっと見つめて言いました。

やめて…

お願い…

柴田は、試食用のドーナツをすべて奪い取って走り去っていきました。

前のアパートに新しい住人が入居する

マームケーキドーナツから走り去った柴田は、その足で1月に退去したアパートを見に行きます。

柴田がずっと住所として履歴書などに書いてきた、就職活動などのための住所です。

郵便物だけは私書箱に届くよう、転送届を出していたんだ

この日、柴田が住んでいた部屋に、ちょうど新しい住人が越してきたところでした。
ついに柴田は、住所を失ってしまいます。
それは、就職して生活を立て直すという最後の細い糸が切れたことを意味するものでした。

転落死の真相

後日、柴田の転落現場の付近で、柴田を傷つけたナイフが発見されます。
ナイフからは柴田の血液指紋(血液が付着した指で遺された指紋)のみが発見され、ほかの指紋はありませんでした。
このことから、そのナイフには、柴田が血を流している時、柴田以外が触れた痕跡がないことになります。
さらに、柴田の医療事務のテキストには、診療報酬の不正請求に関する項目にマーカーが引かれていました。そこには、防御創(人に襲われた時に身を守ろうとしてついた傷)とためらい傷(自傷)の違いが図解で説明されていました。
ここから導かれる結論は一つ。
柴田はナイフを購入し、防御創を自ら付けて背中から落下したのです。
つまり、自ら命を絶ったのでした。
兄の英樹は「何のために」と驚きます。
杉下右京は、社会に殺されたという絶望を、柴田は誰かに分かってほしかったのかもしれないと説明しました。

「ボーダーライン」の感想

つらかった…

いろんな人が出てきたけれど、「この人だけが悪い!」って感じではなかったよね

そうだね

誰かが柴田だけを陥れようとして悪事を働いたわけではないし、どれか一つが決定打になったわけでもなかったね

生まれた境遇、さまざまな業界の悪習、助けを求められない柴田の性格とか、いろいろなことが重なり合った結果だったね

非正規雇用で雇い止めにあっても、年齢が若ければ働き口は見つかりやすいでしょう。
でも、見えないボーダーラインを超えると働き口がだんだんと見つかりにくくなり、労働条件も悪くなってしまう。
先細っていくことが分かっていても抜け出す方法がないという、恐ろしさが伝わってきました。
柴田の場合は、資格を取得したもののタイミングが遅く、社会のセーフティネットからこぼれ落ち、家族とも疎遠だったことで、抜け出す方法を見つけることができませんでした。

自分だけではどうしようもない部分はたくさんあったと思います。

でもその一方で、自分で変えられそうな部分もありました。
杉下右京が言うように、柴田本人か周囲の人間のどちらかが本気で手を差し伸べていれば、この結果になることまでは防げたのかもしれません。

家族とはいえ、仕事帰りに公園にちょっと寄ってもらってできるような相談じゃないよね

お兄さんに必死さが伝わりにくかったのは残念だった

お兄さんも「もっと話せばよかった」という気持ちだと思う

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