テレビドラマ「相棒season16」の第16話を解説します。
花の里の2代目女将、「ツイてない女」こと月本幸子の回です。月本幸子のことを「さっちゃん」と呼ぶ男・烏丸(からすま)が登場します。
見ていてこっちが恥ずかしくなる、むずがゆい恋愛回です
烏丸さんが見た目と違って、思春期の男の子みたいですよね
「さっちゃん」の概要
放送日
2018年2月14日
主な出演者
池田成志、小手伸也、新井和之、田原可南子、松原夏海、児玉貴志
相棒のレギュラー
杉下右京・冠城亘・月本幸子・伊丹憲一・芹沢慶二・角田六郎
脚本
真野勝成
監督
橋本一
「さっちゃん」のあらすじ
消費者金融ラブリーファイナンスの事務所の窓ガラスが、大きな音を立てて勢いよく割れます。
警察官が駆け付けると、現場には男性社員3名と部外者の男性1名が倒れており、男性社員の1名は死亡、部外者の男性は刃物で背中を刺され、意識不明の重体でした。
背中を刺された男性の名は、烏丸晃司(池田成志)。
事件の3週間前、烏丸(からすま)は月本幸子(鈴木杏樹)と言葉を交わしたことをきっかけに、彼女が女将を務める小料理屋・花の里に通うようになりました。
烏丸は元暴力団員で、傷害の前科がある男です。足を洗ってからはプロボクサーとして活躍しますが、なぜかタイトルマッチの直前に引退し、現在は工事現場などで働いて生計を立てています。
烏丸が月本幸子に好意を寄せていることは明らかで、冠城亘(反町隆史)は当初、烏丸のことを露骨に警戒していました。しかし、互いに一歩を踏み出せない様子の2人を見て、彼の背を押してやり、ついに幸子と烏丸は初めて2人でデートをします。
事件のあった当日、2人は公園でデートを楽しみ、別れ際に次の約束をしようとしていました。
その時、チンピラ2人が男1人に対して暴力を振るう現場に遭遇し、止めに入った幸子がチンピラの1人に頭をはたかれます。
それを見た烏丸は逆上し、止めようとする幸子を振り払って、男たちに殴る蹴るの執拗な暴力を振るい、大怪我を負わせてしまいました。
相手に被害届の意思はなく事件化には至りませんでしたが、幸子は特命係と烏丸の前で、自分が「ツイてない女」であると自棄になり、自身の過去の話を聞かせて烏丸を遠ざけます。
烏丸がラブリーファイナンスで騒ぎを起こしたのは、その直後でした。
なぜ烏丸が、縁もゆかりもない街金融の事務所で騒ぎを起こしたのか、特命係は真相を調べます。一方、幸子は「ツイていない」自分のせいで烏丸が不幸になったと考え、彼女もまた、烏丸の真意を知るため独自に動き始めます。
「さっちゃん」の見どころ
月本幸子(つきもと・さちこ)とは
月本幸子は、season10から小料理屋「花の里」の2代目女将を務めています。
彼女の初登場はseason4第19話「ついてない女」です。
夫を亡くし、借金と病気で生活ができず、やむなく金融ヤクザの情婦として生きていましたが、そのヤクザが夫を殺害した張本人であることを知り、復讐を決行します。
その結果、殺人未遂の罪で特命係に逮捕され、服役していました。
刑期を終えて出所した幸子は、杉下右京の計らいで宮部たまきの「花の里」を引き受けます。
おっとりとした雰囲気でいつも周囲を和ませる幸子ですが、自分のことを「ツイてない女」だと思い込んでいるため、幸運が訪れても受け入れられず、過去には「陰謀だ」と騒ぎ立て、せっかくの良縁を不意にしたこともあります。(S10-12)
烏丸晃司(からすま・こうじ)とは
烏丸晃司は、建設現場などで肉体労働をしている、元プロボクサーの男性です。
過去に暴力団に属し、傷害の前科もありますが、20年以上前に足を洗っています。
公園での休憩中、幸子と同時にため息をついたことがきっかけで挨拶をかわし、その後、買い出し中の幸子と再会したことがきっかけで、花の里に通いはじめます。
お気に入りのメニューは、幸子のポテトサラダです。
月本幸子とのデート中に暴力沙汰を起こしたその日、烏丸は消費者金融ラブリーファイナンスで背中を刺され、意識不明の状態で発見されます。
ボクシングに目覚めた烏丸は、すぐに頭角を現し、無敗のまま日本ランキング2位まで駆け上がります。
ところが、日本タイトルの直前で試合をキャンセルし、そのままプロボクサーを引退しています。
烏丸晃司がプロボクサーを引退した理由は、幼少期に父から受けた暴力の後遺症にありました。
発作が起こると、暴力を抑えられなくなってしまう特性を抱えていたのです。
日本タイトルに挑戦する際も、試合前のスパーリングで目尻を切ったことがきっかけでスイッチが入り、相手をボクシングではなく喧嘩でボコボコにしてしまいました。
この出来事が、烏丸が引退を決意するきっかけとなったのです。
ラブリーファイナンス事件、先に手を出したのは誰か
ラブリーファイナンスの生存者である代表の葛西武(小手伸也)と社員の八尋恵一(新井和之)は、烏丸が突然事務所に現れて、自分たちを襲ったと証言します。
杉下右京は、左前腕の太さから葛西(かさい)が剣道経験者であることや、拳ダコから八尋が空手経験者であることを見抜き、現場の状況や烏丸の負傷から、葛西が木刀を持ち出して立ち回ったことや、八尋(やつひろ)が烏丸に蹴りを入れたことを推理します。
ちなみに窓ガラスを割ったのは、葛西による「突き」です。
杉下右京の推理に対し、2人はまあまあ暴れたことは認めますが、それはあくまで正当防衛として烏丸に抵抗しただけだと主張します。
また、亡くなった男性社員は赤城亮といい、彼がナイフを持ち出して烏丸に抵抗し、命懸けで自分たちを守ってくれたと話します。
城代金融の田村秀明が久々に登場
城代金融の構成員であり、月本幸子を慕っている田村秀明(児玉貴志)が再登場します。
城代金融とは、かつて月本幸子を愛人として囲っていた男・向島茂が所属していた金融業者であり、その本体は暴力団です。
田村は月本幸子に、事件のあったラブリーファイナンスが、かつて城代金融に出入りしていた赤城亮が仲間と共に立ち上げた消費者金融であることを告げます。
ろくでもないカラクリがあると感じた月本幸子は、烏丸が本当は何をしようとしたのかを知るため、田村から拳銃を調達します。
幸子の得意武器じゃん!
ただし今回は、弾丸は撃てないモデルガンになっています
「何なんだこのやべぇババアは」
特命係は、ラブリーファイナンスの事件現場から女子大生・渡辺真子(田原可南子)が立ち去った可能性にたどり着きます。
真相を確かめるために渡辺の自宅を訪ねると、ちょうど彼女がラブリーファイナンスの葛西の車に乗り込み、走り去っていくところでした。
渡辺は、学費のためラブリーファイナンスに借金をしたものの返済できなくなり、AV出演を契約させられていたのです。
一方で、八尋らを尾行していた幸子は、特命係よりも早く渡辺の撮影場所を発見し、銃声を響かせながら乗り込みます。
この時、八尋は幸子を落ち着かせようと、わりと丁寧に対応していますが、幸子は聞く耳を持ちません。
本当のことを警察に話して!
本当に俺たち、ただの被害者なんですよ
(発砲)
なめんなよ?こっちは人撃ったことあるんだから
何なんだこのやべえババアは…
葛西と八尋が応戦しようとしたところで、特命係が到着し、事なきを得ます。
ちなみに今回、月本幸子が合計3回もババアと呼ばれてしまいます…
おい幸子はババアじゃないだろ!
ガキどもが!
烏丸晃司の事件の真相
月本幸子による大立ち回りの後、ようやく烏丸の意識が戻ります。
ここからは今回の真相のネタバレを含みます。
幸子たちと別れて警察署を出た後、烏丸は考え事をしながら街を歩いていました。
その時、ラブリーファイナンスの代表・葛西武が、泣いている渡辺真子を説得している場面を目撃します。
渡辺は借金の返済ができなくなり、何かを重大な決断を迫られている様子でした。
その姿が、かつて生活のために好きでもない男に搾取されることを選んだ月本幸子と重なり、烏丸は放っておけなくなります。
彼はそのまま葛西らを追い、ラブリーファイナンスの事務所に乗り込み、渡辺に逃げるよう指示します。
渡辺は逃げようとしますが、葛西に捕まり、烏丸は八尋に蹴りを入れられてしまいます。
応戦する烏丸でしたが、葛西と八尋を昏倒させたところで、背後から赤城亮に刺されます。
すぐに振り返り、赤城の腹部を掌底で突いて倒しますが、出血がひどくその場で意識を失ったのでした。
なお、この隙に逃げた渡辺真子が持ち出したビデオカメラの映像により、烏丸が先に手を出していないことが証明されました。
この時の烏丸は冷静であり、拳ではなく掌底(手のひら)を使って戦いました。
葛西と八尋は、烏丸がアゴを正確に狙い、初手で昏倒させたため軽傷で済んでいます。
烏丸を背後から刺した赤城についても、烏丸は掌底で応戦しました。
この時、振り向いた体勢から、赤城を骨折させないため腹部を選び、掌底を打ち込んでいます。
本来であれば亡くなるような攻撃ではなかったのですが、赤城にはもともと薬物使用による内蔵疾患があったため、烏丸のねらいが裏目に出て、その一打に耐えられず亡くなったのでした。
不本意とは言え、赤城を死なせてしまったことについて、烏丸は潔く罪を認めます。
烏丸はこれまでの自身を振り返り、ボクサー失格だと話します。これに対して杉下右京は「あの日のあなたはボクサーでした。複数の武装した男たちを相手にあなたは決して拳を使わなかった。ボクサーとしての誇りを守りながら女性を助けたのです」と温かい言葉をかけています。
月本幸子の本音
事件解決後、冠城亘は幸子に「烏丸の面会に行かないのか」と尋ねますが、幸子は「もう終わったこと」だと言います。
杉下右京はそんな幸子に「あなたはもうツイていない女ではありません」と言いますが、幸子は、杉下から今の幸せに感謝するようたしなめられたと思ったのか、「前科があるのに花の里という居場所をもらうことができ、皆に優しくしてもらっている。これ以上を望んだら罰が当たる」と話します。
今回、「花の里を与えてもらっている」ことが負担になってそうな言動がちょいちょいありましたね
その言葉を聞いた杉下右京は、「烏丸が自分のせいで不幸になったと思うのは傲慢。彼は彼の人生と戦い、その結果を背負っている。あなたと同じだ」と諭します。
それを聞いて少し楽になったのか、その後、幸子は烏丸と拘置所で面会します。
烏丸と幸子のその後
拘置所で幸子は烏丸に、人生に立ち向かうために店に立っているが、過去を悔いたり不安になったりする日があると話します。
そんな彼女に対して、烏丸は「ノー・マス事件」の後に復活したデュランというプロボクサーの話をし、「戦い続けることに意味はある」と幸子を励まし、最後に「さっちゃん、ファイト」と声を掛けます。
幸子にとっての「戦い続けること」とは、悩みながらも店に立ち続けることでしょうね
その気持ちは幸子に伝わったようで、後日、幸子は一人、鏡の前でボクシングの構えを取っています。
幸子と烏丸のその後は分かりませんが、彼の言葉が、幸子が花の里に立ち続ける支えになったことは間違いありません。
幸子がひどい目に遭わなくてよかった
今回、月本幸子は通りすがりのチンピラに頭をはたかれています。
ハラハラした人も多いと思うのですが、これでも一番ひどい目に合わされたseason6に比べればかなり平和な絵面です。
顔面を殴打されて口から血を流す幸子や向島茂に捕まって泣きながら怯えている幸子を見れば、チンピラのしたことがそれほどひどく見えなくなります。
月本幸子の過去回が観たい方はseason4の「ついてない女」の他に、season6の「ついている女」「狙われた女」も視聴してみてください。