微罪処分・軽犯罪・軽微な犯罪の違いをわかりやすく解説

微罪処分、軽犯罪、軽微な犯罪には、実は明確な違いがあることをご存知でしょうか。

今回は、これらの用語の違いについて詳しく解説します。

これを知っておけば、刑事ドラマをより深く楽しむことができるはずです。

微罪処分とは

微罪処分とは、警察が検察に事件を送致せず、警察限りで収める処分のことです。

通常、警察が認知した事件については、警察が捜査をした後に検察に送致して、検察が起訴するかどうかの判断を行います。

しかし、このうち検察があらかじめ指定した一定条件に該当する事件については、検察に送致せず、警察の判断で「微罪処分」とし、警察内でその事件を終わらせることが認められています。

つまり、微罪処分とは、警察が捜査した事件の終結方法の一つになります。

微罪処分の対象となる事件

微罪処分の対象となるのは、検察があらかじめ指定した軽微な事件です。

犯罪白書によると、おおむね次のような事件が微罪処分の対象として指定されています。

【一般事件の場合】

・被害僅少かつ犯情軽微で,賍物の返還その他被害の回復が行なわれ,被害者が処罰を希望せず,かつ,素行不良でない者の偶発的犯行で,再犯のおそれのない窃盗,詐欺,横領事件およびこれに準ずべき事由のある賍物事件。
【賭博事件の場合】

・得喪の目的たる財物がきわめて僅少で,かつ,犯情も軽微であり,共犯者のすべてについて再犯のおそれのない初犯者の賭博事件。

(出典)法務省:昭和35年版 犯罪白書

一般的には、窃盗、暴行、傷害、詐欺、横領(遺失物等横領を含む)、盗品譲受け、賭博などのうち、被害者が処罰を望んでいない犯行内容が明白で軽微である被害金額がある場合は2万円以下であるなどの諸要件を満たす事件が、微罪処分の対象事件に指定されています。

微罪処分の対象になる事件の指定は、検察が管轄の警察に行うこととされているため、全国一律ではない可能性もあります。

微罪処分がもっとも多い事件は万引き

微罪処分が最も多く適用されている犯罪の手口は、万引きになります。

平成30年版の犯罪白書によれば、微罪処分63,756件のうち29,089件が万引きでした。

参考までに、平成30年版犯罪白書における微罪処分の罪名と件数は以下のとおりです。

罪名件数
窃盗 41,794件
うち、万引きが29,089件
暴行12,041件
傷害26件
詐欺1,074件
横領8,484件
(うち、遺失物等横領が8,363件)
盗品譲受け等327件
賭博10件

微罪処分になるのは3割弱

微罪処分として扱われる事件が多いのか少ないのかということを、感覚として知りたい方もいらっしゃるでしょう。

上記のような刑法犯が微罪処分になる割合は、おおむね3割弱です。

犯罪白書によれば、刑法犯の全検挙人員のうち微罪処分となった人員は、令和3年が28.5%、令和4年が28.1%でした。

(参考)法務省:令和4年版 犯罪白書

(参考)法務省:令和5年版 犯罪白書

微罪処分の法的根拠

微罪処分は、警察の独断で行っているわけではなく、しっかりと法律に基づいています。

具体的には、刑事訴訟法第246条の但し書きに、「検察官が指定した事件については送致する必要がない」という規定があり、これを受けて、犯罪捜査規範の第198条で「検察官から送致不要とあらかじめ指定された軽微な犯罪については送致しない」と定められています。これらが、警察による微罪処分の法的根拠になっています。

犯罪捜査規範とは捜査を行う警察官のルールブックみたいなものです

厳密にいうと法律ではなく、規則(国家公安委員会規則)にあたります

微罪処分は前科・前歴になるのか

微罪処分になった事件は、「前科」(刑罰が確定した経歴)になりません。

ただし、「前歴」(警察や検察の記録)としては残ります。

なお、微罪処分の対象になる事件は、「素行不良でない者の偶発的犯行で再犯のおそれのない」事件ですので、こうした記録は、再犯の際の処分に影響を及ぼすことが考えられます。

警察で微罪処分とされた犯罪については検察に毎月一括で検察に報告することになっていますので、検察にも把握されています。(犯罪捜査規範第199条)

少年は微罪処分の対象にならない

微罪処分の対象となるのは成人です。

少年事件には全件送致主義というルールがあるため、嫌疑が不十分でそもそも事件化されない場合を除き、基本的にすべて送検しなければならないことになっています。

したがって、少年に微罪処分が適用されることは基本的にありません。(検挙時の年齢によっては例外も考えられます)

微罪処分でも捜査は行われる

微罪処分は、警察官がその事件を捜査した結果、検察が指定した一定条件に該当する犯罪であると判明した場合に適用されます。

事実の解明や被疑者の人物評価を行ってようやく微罪処分という選択ができる構造になっているため、たとえ結果として微罪処分になりそうな犯罪であっても、事情聴取などのある程度の捜査は行われることになります。

単なる注意は微罪処分ではない

警察ドラマで、現場にやってきた警察官に怒られて終わるような場面を見たことはないでしょうか。

例えば、屋外でケンカになり騒いでいたところを通報され、現場に来たお巡りさんに怒られて解散させられるようなシーンです。

こうしたケースは警察が犯罪として捜査を始めたわけではないため、当然ながら微罪処分の判定もされていません。

このように単なる注意で終わらせた対応も警察限りの処分の一つではありますが、刑事訴訟法上の手続きである微罪処分とは異なります。

軽犯罪とは

軽犯罪とは

軽犯罪とは、軽犯罪法第1条に定められる第1号から第34号までの行為のことです。

具体的には、大きな音を立てて周りに迷惑をかけるなど平穏な生活や社会のルールに反する行為のほか、建造物侵入罪などで取り締まれない田畑への侵入や銃刀法違反で取り締まれないサイズの凶器の隠匿携帯などが対象になります。

この法があることにより、比較的軽い態様の違反についても警察がしっかりと指導できるようになります。

なお、単なる指導で終わらず、軽犯罪法違反として検挙され、検察に送致される場合もあります。警察庁の統計によれば、例年8,000件ほどが検挙されています。

(参考)警察庁:犯罪統計

検察で起訴された場合、軽犯罪と言っても拘留または科料の罰を受ける可能性があります。科料とは1万円以下の罰金のことです。

軽犯罪にあたる行為

軽犯罪に該当する行為は、軽犯罪法第1条において1号から34号まで定められています。

このうち一つが削除されているため、現在、33の行為が規制されています。

具体的には、以下のとおりです。

軽犯罪にあたる行為内容
無人の建物などへの不法侵入誰も住んでおらず、見張りもいない家や建物、船などに、正当な理由がないのに隠れて侵入すること。
凶器の隠し持ち正当な理由なく、刃物や鉄棒など、人を傷つけたり重大な害を与える恐れのある凶器を隠して持ち歩くこと。
侵入用具の隠し持ち正当な理由なく、合鍵やのみ、ガラス切りなど、他人の家や建物に侵入するために使う道具を隠して持ち歩くこと。
職業に就く意思がないままのうろつき生計を立てる手段がないにもかかわらず、働く能力があるのに職業に就く意思を持たず、一定の住居もないまま、あちこちをうろつくこと。
公共の場所での迷惑行為劇場や電車、飲食店、ダンスホールなどの公共の場で、大声を出したり乱暴な言動をして、周囲に迷惑をかけること。
公共の灯火を消す正当な理由なく、他人の標灯や街灯、公共の通行場所に設けられた灯火を消すこと。
水路の交通妨害船やいかだを水路に放置するなどして、水路の交通を妨げる行為をすること。
災害時の公務妨害風水害、地震、火事、交通事故、犯罪の発生などの非常時に、正当な理由なく現場で公務員やその助力者の指示に従わなかったり、助けを求められたのに応じないこと。
火気の取り扱いに関する不注意十分な注意を払わずに、建物や森林など燃えやすいものの近くで火をたいたり、ガソリンなど引火しやすい物の近くで火気を使うこと。
爆発物などの不注意な使用注意を怠って、銃砲や火薬類、ボイラーなどの爆発物を扱ったり、遊んだりすること。
危険な場所での投げ物や発射注意を払わずに、他人の身体や物に害を及ぼす可能性のある場所で物を投げたり、注いだり、発射すること。
危険な動物の放置人や動物に害を与える性癖のある犬などの動物を、正当な理由なく解放したり、その監視を怠って逃がすこと。
公共の場での乱暴行為や列への割り込み公共の場で乱暴な言動で迷惑をかけたり、行列に割り込んだり、その列を乱す行為をすること。
騒音による迷惑行為公務員の制止を無視して、人声や楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して、近隣に迷惑をかけること。
資格や称号の詐称法令に定められた称号や外国の称号を詐称したり、資格がないのに制服や勲章、記章を使うこと。
虚偽の申告実際には発生していない犯罪や災害の事実を公務員に申し出ること。
不正な記帳による虚偽記載質入れや古物の売買に関する帳簿に、法令で記載すべき情報について虚偽の申告をして、偽りの記載をさせること。
扶助が必要な人や死体の放置自分の管理下にある場所に、助けが必要な高齢者や病人、または死体や死胎があることを知りながら、速やかに公務員に届け出ないこと。
変死体の現場を変える正当な理由なく、変死体や死胎の現場を動かしたり変えること。
公共の場での露出公共の場で、人に不快感を与えるような仕方で尻やももなど体の一部をわざと露出すること。
物乞い行為物乞いをする、または他人にさせること。
のぞき見行為正当な理由なく、人の住居、浴室、着替える部屋、トイレなど、人が通常服を着けない場所をひそかにのぞき見ること。
儀式の妨害公私の儀式を悪ふざけなどで妨害すること。
水路の妨害川や溝などの水路の流れを妨げる行為をすること。
公共の場での不衛生な行為公園や道端などで唾を吐いたり、用を足したりすること。
ゴミの不法投棄公共の利益に反して、勝手にゴミや動物の死体、その他の汚物や廃物を捨てること。
つきまとい行為他人の進路に立ちふさがったり、周囲に集まって立ち去らなかったり、不安や迷惑を感じさせるような仕方で他人につきまとうこと。
共謀の予備行為他人に害を加えることを共謀し、その計画に基づいて予備行為を行った場合の共謀者。
動物を使った妨害行為他人や家畜に対して犬などの動物をけしかけたり、馬や牛を驚かせて逃げ出させること。
業務の妨害他人の業務を悪ふざけなどで妨害すること。
田畑等への侵入許可なく、入ることを禁じられた場所や他人の田畑に正当な理由もなく入ること。
他人の建物や物品へのいたずら他人の建物や看板にポスターを貼ったり、禁止札や標示物を取り除いたり、汚したりすること。
誤解を招く広告他人をだましたり誤解させるような事実を使って、物を販売したりサービスを提供するための広告を出すこと。

「こんなのも犯罪になるんだ」というものがあったのではないでしょうか。

ちなみに検挙件数の内訳によると、凶器の隠し持ち(第2号)、田畑等への侵入(第32号)、火気の不注意(第9号)が多いです。

軽犯罪と微罪の違い

軽犯罪と微罪の違いについても見ておきましょう。

軽犯罪は、軽犯罪法に定められた1号~34号に該当する特定の行為に対する罪名です。

一方で、微罪は、刑法に定められた窃盗、暴行、傷害、詐欺、横領などの犯罪に該当するもののうち、被害者の処罰感情がないなど一定の要件を満たす犯罪になります。

わかりやすい違いは、対象となる犯罪行為が違うということです。

軽微な犯罪とは

軽微な犯罪とは

最後に「軽微な犯罪」についてもご紹介します。

軽微な犯罪とは、内容が軽微であるため、逮捕をする場合に特別な条件が必要になる犯罪のことです。

警察は、一定の容疑があり、かつ拘束する必要性がある場合は、令状による逮捕(通常逮捕)や現行犯逮捕をすることができます。

ただし、疑いがあればどんな罪でも逮捕してよいというものではありません。

刑事訴訟法では、その罰則が30万円以下刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪については、次の要件がなければ逮捕できないとしています。

通常逮捕
刑事訴訟法第199条
定まった住居を有しない場合または正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合
現行犯逮捕
刑事訴訟法第217条
住居若しくは氏名が明らかでない場合または犯人が逃亡するおそれがある場合

つまり、軽微な犯罪とは、嫌疑があっても逮捕まではされにくい犯罪であるといえます。

ちなみに逮捕には、もう一つ「緊急逮捕」(刑事訴訟法第210条)がありますが、これは「死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁固にあたる罪」という重い罪しかそもそも対象にならないため、軽微な犯罪に関するルールは存在しません。

刑事ドラマの場合、「軽微な犯罪」にあたらない犯罪を追うストーリーがほとんどです。そのため、軽微な犯罪の議論がでてくることはまずありません。

軽犯罪と軽微犯罪の違い

「軽犯罪」は軽犯罪法に基づく1号から34号の行為を指します。

一方で「軽微な犯罪」は、「30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪」として刑事訴訟法の通常逮捕・現行犯逮捕の判断時に特別な条件を満たさなければならない犯罪のことです。

「軽犯罪」は「違反行為」であり、「軽微な犯罪」は「逮捕の判断要素」ということです。

ちなみに、軽犯罪法違反の罰則は「拘留または科料」ですので、「軽犯罪」は「軽微な犯罪」の一つに含まれます。

まとめ

微罪・軽犯罪・軽微犯罪内容特徴
微罪窃盗など一定の刑法犯罪のうち、常習者によらない軽微な内容で、被害者に処罰意思がない事件警察は送致しない
軽犯罪軽犯罪法に定められている第1号~第34号の行為起訴され罰を受けることもある
軽微な犯罪30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪逮捕の判断において特別な条件を要する(=逮捕まではされにくい罪)

微罪処分、軽犯罪、軽微な犯罪の違いを理解することで、刑事ドラマを見るときにより深い視点から楽しむことができます。

警察ドラマを見ながら「この事件はどう処理されるんだろう?」と考えると、新たな発見があるかもしれません。