テレビドラマ「相棒season15」の第18話を解説します。
悪魔の証明とは、証明することが不可能に近いことを悪魔に例えた表現です。
その事実が「有ったこと」は物証を得ることで証明できますが、その反対、すなわちその事実が「無かったこと」を証明することは「有ったこと」を証明するよりも困難になります。
第18話「悪魔の証明」の概要
放送日
2017年3月22日
主な出演者
芦名星 羽場裕一 榊英雄
相棒のレギュラー
杉下右京・冠城亘・月本幸子・伊丹憲一・芹沢慶二・角田六郎・青木年男・大河内春樹・大木長十郎・小松真琴・内村完爾・中園照生・甲斐享(回想)・日下部彌彦・衣笠藤治・社美彌子・甲斐峯秋
脚本
輿水泰弘
監督
橋本一
第18話「悪魔の証明」のあらすじ
サイバーセキュリティ対策本部の特別捜査官である青木(浅利陽介)が、冠城亘(反町隆史)のパソコンを踏み台に、広報課長・社美彌子(仲間由紀恵)の私物のパソコンを乗っ取り、社美彌子の私生活の写真や動画をのぞき見ます。
翌朝、異変を察知した社美彌子がパソコンの調査を依頼したところ、侵入の痕跡が発見され、その疑いは冠城に向けられました。
ある日、社美彌子のもとに週刊フォトスの風間楓子(芦名星)から取材の申し込みが入ります。風間は、社美彌子のパソコンから流出したと思われる外国人風の少女の写真を入手していました。社美彌子は取材を拒否しますが、その後、「警視庁美人広報課長は国際派シングルマザーだった!?」というセンセーショナルな見出しで、少女の写真とともに記事が公開されてしまいます。これにより冠城はパソコンに侵入した上、盗んだ画像を週刊誌に売ったという二重の汚名を着せられる事態となりました。
そしてこの記事により、警視庁上層部と杉下右京(水谷豊)がそれぞれ動き始めます。
警視庁上層部は、社美彌子がシングルマザーである事実よりも、外国人風の娘の父親の正体に関心がありました。衣笠副総監(大杉漣)や内村部長(片桐竜次)が父親は誰なのか尋ねますが、社美彌子はプライバシーを盾にして答えません。
一方、雑誌に掲載された少女の写真を見た杉下右京は、その背景からロシア式の正月を祝う場面であると推理し、少女の父親について一つの仮説にたどり着きます。
その仮説を確かめるため、杉下右京は、かつての相棒・甲斐享(成宮寛貴・回想)と共に検挙した、元・内閣情報調査室室長であり社美彌子の直属の上司であった天野是清(羽場裕一)に面会します。
天野と話し、社美彌子の娘の父親を突き止めることが天野事件の最後の謎を解く鍵だと直感した杉下右京は、さらに調査を進めます。一方で冠城は、社美彌子のプライバシーを自己満足のために侵害しているようにしか見えない杉下右京に不快感を覚え始めます。
第18話「悪魔の証明」の見どころ
悪魔の証明を観る前に視聴しておきたい回
悪魔の証明は、社美彌子のヤロポロク問題の続きです。この問題に関わる天野是清(羽場裕一)も再登場します。
ヤロポロクや天野についてはseason13第1話「ファントム・アサシン」を、そして冠城亘が社美彌子のいる広報課から特命係に異動した経緯がわかるseason15第1話「守護神」をチェックすると、より「悪魔の証明」を楽しむことができます。
週刊フォトスの記者・風間楓子が初登場
週刊フォトスの記者・風間楓子(かざま・ふうこ/芦名星)が初登場します。
週刊フォトスはゴシップ雑誌であり警察批判もするため、警視庁からはあまり良く思われていませんが、その割に警視庁に多くの読者がいる雑誌になります。
杉下右京、異国文化から少女アニメにまで精通
週刊フォトスに掲載された少女の写真の背景から、杉下右京は、その写真がロシア式の正月を祝う場面であることを推理します。
また背景にカレンダーの一部が映り込んでおり、そのカレンダーに貼られたシールの絵柄が、2013年に登場したプリキュアであることから、カレンダーの年月を特定します。
さすがにプリキュアのキャラクターを把握しているわけではなくネットで調べたとのことですが、かなり短時間で調べ上げているため、初見で「プリキュアの様ですねぇ…」という程度の勘は働いたのではないかと考えられます。
日付と曜日の組み合わせから西暦がわかるのもすごい
天野是清が再登場
この項目は、season13第1話「ファントム・アサシン」の重大なネタバレを含みます。
天野是清とは、元・内閣情報調査室室長であり社美彌子の直属の上司です。
2年半前、ヤロポロクの亡命に端を発した連続殺人事件の犯人になります。
天野の犯行であることは、杉下右京と当時の相棒・甲斐享によって暴かれ、天野も「国賊」への私刑であったことを告白します。
しかし、最後の被害者である下山議員の殺害動機のみ不自然であり、杉下右京はその動機をずっと気にしていたのです。
天野室長が社美彌子にだけ真相を明かすシーンがあり、視聴者には本当の動機がわかっているのですが、杉下右京は知らないという状況です。
天野室長の動機については、社美彌子のまとめ記事で解説しています。
日下部彌彦の狙いが明らかに
法務省の日下部事務次官は、社美彌子について冠城亘から情報を引き出そうとしたり、公安調査庁の男を使って社美彌子の身辺を探ったりしていました。
今回、その狙いが明らかになります。
日下部彌彦は、社美彌子の娘の父親がヤロポロクではないかと既に目星をつけていました。
社美彌子が、国を裏切ってスパイと通じていた証拠を挙げ、彼女を罰することが狙いだったのです。
日下部彌彦の執務室から特命係の部屋に戻った冠城亘は唐突に、「俺、こう見えてロマンチストなんですよね」と杉下右京に告げます。
冠城亘は、社美彌子がヤロポロクに溺れて情報を流していた一方的な関係ではなく、2人が純粋な愛情で繋がっていたと信じているようです。
しかし、冠城亘のそのような内心を杉下右京が知るはずもなく、その場は謎のロマンチスト宣言に終わっています。
杉下右京「想像が及ばないのならば…黙っていろ!」
そんな微笑ましいやりとりがありながらも、杉下右京は天野事件の真の動機に近づくために、社美彌子の父親について調べます。
そして何を思ったのか、週刊フォトスの風間楓子を訪ねて、父親はヤロポロクだとリークします。
そのことを風間楓子から聞いた冠城亘は、花の里で「俺なんかの想像の及ばない狙いがあってのことだと思いますけど」と前置きしながらも「結構な乱暴狼藉」であると、杉下右京のリークを非難します。
さらに冠城が、杉下右京は社美彌子の秘密をもてあそんでいる、根本にあるのは所詮、自己満足だなどと指摘したことで、杉下右京も頭にきて「想像が及ばないのならば…黙っていろ!」と怒りをにじませます。
それに対し冠城も「右京さん、あなた、何様だ」と返します。
花の里の空気が最悪だよ…
冠城君も前に自分の好奇心でリークしていたと思うのですが…
それではなぜ杉下右京はヤロポロクのことを週刊フォトスにリークしたのか。それについては「悪魔の証明」の真実で判明します。
悪魔の証明の真実
この項目は、今回の「悪魔の証明」の重要なネタバレを含みます。
season15第最終話「悪魔の証明」は2時間SPであり、1時間46分の作品です。
開始から1時間15分ほど(地上波であれば1時間半頃)で、杉下右京がついに、この件は社美彌子の自作自演であるという驚きの真実にたどり着きます。
するとそれまでのストーリー、つまり社美彌子が何者かに嵌められてプライバシーを脅かされているというストーリーが、まったく別の話になります。
以下、杉下右京によって暴かれた事実を織り交ぜながら、悪魔の証明の本当のストーリーを整理します。
のぞきが趣味の青木は社美彌子の私物PCに侵入して写真を盗み見た後、デスクトップのアイコンの位置をわざとずらして、社美彌子が気づくかどうかいたずらを仕掛けます。
アイコンの位置に違和感を覚えた社美彌子は、サイバーセキュリティ対策室に調査を依頼します。調査の結果、冠城亘のPCから侵入された痕跡が見つかります。これは青木が冠城の目を盗んで冠城のPCにバックドアを仕掛け、冠城亘のPCから社美彌子にバックドア付きのメールを送り、冠城亘のPCから社美彌子のPCに侵入したためです。
社美彌子はPC侵入被害を逆に利用し、娘・マリアの存在を公にする計画を思いつきます。この計画を実行すれば、冠城が「元上司のプライベート写真を週刊誌に売った卑劣な男」という汚名を着る結果になることはわかっていたはずなので、社美彌子は冠城に汚名を着せても構わないと考えて計画を実行に移したことになります。
社美彌子が自ら週刊誌に情報提供をした場合、後に自作自演であることが週刊誌から漏れる可能性もあります。そのため、大学時代の恋人・軍司にマリアの写真を渡し、自身とマリアの記事を週刊誌に掲載させるように動いてもらいます。
ドラマでは描かれていませんが、軍司が現在の交際相手であり週刊フォトスの記者でもある風間楓子に、マリアの写真を渡します。
風間から社美彌子に、取材を申し込む連絡が入ります。
どうやら風間は、軍司が社美彌子に頼まれて情報提供していることを知らないようです。
風間からの連絡を受けた後、上司である総務部長の元に行き、週刊フォトスに記事がでることを報告します。
総務部長室から戻った後、応接室に一人で入り、ブラインドを閉めています。何をしているかは不明ですが、おそらく軍司に「週刊誌から連絡あったわ」的な報告をしているものと考えられます。
目線入りの顔写真とともに記事が公開されます。
週刊フォトスに掲載された写真が社美彌子のPCに保存されていたものと同じであるため、冠城亘が疑われます。冠城は社美彌子の目をまっすぐ見て無実を主張しますが、社美彌子は無言でした。
カレンダーとプリキュアから、ヤロポロクとの間に生まれた娘ではないかと推理します。
天野事件の犯行動機がずっとわからず気になっていた杉下右京は、天野と面会し、自身の推理を天野にぶつけて反応を見ます。天野の反応を見て、ヤロポロクが天野事件の犯行動機に関わっていると感じます。
社美彌子の娘の容姿が外国人風であることから、警視庁上層部が社美彌子を呼び出し事情聴取をします。しかし社美彌子はプライバシーを盾にして、父親について何も答えません。社美彌子の計画を遂行するためには、ここで真実を話すこともできたはずですが、警視庁内で誰が敵で誰が味方かを見極めるため、あえて自分に疑いがかかる状況をしばらく続けることにしたと考えられます。
また、警視庁上層部が独自にヤロポロクとの関係にたどり着いた後であれば、今よりも厳しい聴取が行われるはずですから、そのときに責め立てられてやむを得ず「例の話」をしたほうが、話の信ぴょう性が高まるという狙いもあったと考えられます。
庁内で社美彌子に好奇の視線が向けられる中、冠城亘は社美彌子を待ち、車で送り届けます。車を降りた社美彌子は、外から窓ガラスをノックし、冠城に「週刊誌の写真はあなたじゃないと思う。そういう卑劣なことをする男じゃないと思うから」と伝えます。一見、かつての部下である冠城を信じようとする良いシーンに見えますが、週刊誌の写真は社美彌子の自作自演ですので冠城を信じているわけではありません。
しかも「週刊誌の写真は」と限定していることから、実は冠城をまだ信じきれていないこともわかります。
杉下右京が週刊フォトスに行き、風間楓子に社美彌子の父親はヤロポロクであると伝えます。後に冠城から「乱暴狼藉」と非難された行為ですが、これは風間を揺さぶり、写真を売った人物に目星をつけるためのものでした。杉下右京は、冠城亘の人間性から彼が写真を週刊誌に売ったと疑うことができず、写真を売った人物が判明すれば今回の騒動の真相が見えてくると考えての行動でした。また「ヤロポロクのヒントが隠れている写真」が選ばれている点から、この時すでに社美彌子の関与を疑い始めていたと考えられます。(ここが、冠城亘の想像の及ばなかった部分です)
杉下右京の考えを知らない冠城は、杉下右京が風間楓子に近づいたことを知って彼女に接触します。
そして風間楓子の心を掴み、杉下右京からヤロポロクのリークがあったことを教えてもらいます。
風間楓子からリークの事実を聞いた冠城は、杉下右京が社美彌子のプライバシーを軽んじていると思い、花の里の食事の席で杉下右京の行為を「乱暴狼藉」と非難します。
しかし、杉下右京もリークした狙いを説明しないため、お互いの言葉足らずにより「想像が及ばないのなら…黙っていろ!」「右京さん、あなた、何様だ」の喧嘩に発展します。
翌朝、社美彌子が杉下右京を訪ねて特命係の部屋にやってきます。先日、冠城亘から送ってもらった車内で、杉下右京が動き始めたことを聞いており、偵察に来たものと考えられます。
杉下右京と社美彌子のやり取りに違和感を覚えた冠城は、「降参」と言って杉下右京に推理を尋ねます。そこでようやく杉下右京は、社美彌子の自作自演を疑っていると冠城に話します。そして、彼女があえて多くのヒントが隠されている写真を選んだ理由について、ヤロポロクに関する追及を自ら望んでいるのではないかと推理を展開します。
風間楓子を見張っていた伊丹・芹沢の活躍により、ついに軍司森一の存在が浮上します。冠城が社美彌子本人に軍司の話を聞きにいったところ、社美彌子は自作自演を認めます。最初から社美彌子のほうが何枚も上手であり冠城が心配する必要などなかったのです。
社美彌子の娘の父親がヤロポロクである可能性にたどり着いた警視庁上層部は、再び社美彌子を呼び出し、今度は厳しい口調で「娘の父親の名前を言え!」と追及します。そこで社美彌子は、父親がヤロポロクであることを認め、娘は乱暴されて生まれた子であると説明します。さらにその場に甲斐峯秋が現れ、彼女の話を裏付ける証言をし、追及は終了します。
天野から社美彌子に面会を求める手紙が届き、美彌子は拘置所で天野と面会します。天野は、社美彌子とヤロポロクが交際していた時期があることは知っていましたが、娘を設けるほどの深い間柄であったことは今回、杉下右京に告げられるまで知りませんでした。そのため「本当に国を裏切っていないのか」と改めて確認しますが、それに対して社美彌子は「裏切っていない」とはっきり答えます。
拘置所から出たところで社美彌子は、これから天野を訪ねる杉下右京と出会います。天野に社美彌子との面会を勧めたのは杉下右京であり、社美彌子は「いちいち人の弱みを突いてくるところがいやらしい」と嫌味をいいます。
また、杉下右京が下山事件の真相を知るために天野に情報提供していたことを知った社美彌子は、その凄まじい執念に「あなたには脱帽です」と言いますが、褒め言葉でないことを知っている杉下右京は「心にもないことを」と返します。
社美彌子の後に杉下右京と面会した天野は、ついに下山議員の事件の動機を話すことを約束します。理由は「これ以上、つきまとわれるのはごめんだ。二度とあなたの顔は見たくない」というもの。天野はなぜ最後にこのような辛辣な言葉をぶつけたのか。これは推測ですが、マリアの存在はかつて天野が殺人を犯して隠した真実を遙かに上回るスキャンダルのはずでした。しかし、社美彌子はそれでも警視庁上層部を丸め込みました。つまり、天野が罪を犯してそのキャリアを守ってやらなければならないほど、社美彌子は弱くなかったのです。これを知り、天野は自身のした行為が滑稽に思えたに違いありません。天野の辛辣な言葉は、おそらく死ぬまで知りたくなかった真実を、自分の好奇心を満たすためだけに突きつけてきた杉下右京に対する、精一杯の非難だったと思います。
悪魔の証明とは
悪魔の証明とは、証明することが不可能に近いことの例えです。
その事実が有ったことは物証を得ることで証明できますが、その反対、すなわち事実が無かったことを証明することはなかなか困難です。
社美彌子が話した「真相」が虚偽であると証明することは、もはや誰にもできません。さらには甲斐峯秋が証人として出てきたことから、衣笠副総監は早々に追及を諦めたのです。